子育てコーチングを用いたお子様との対話テクニックとは

子育てコーチングは、「対話を積み重ねることで、親と子どもで目標達成のために向けて共に同じ方向を目指すこと」です。
子育てコーチングを実践する際に気を付けたいポイントは、対話を重ねる際にどのような言葉を使用するのが適切か、ということです。

お子様の本音を聞けないことには、適切なコーチングを図ることはできませんし、お子様が素直にうなずける言葉をかけてなければ折角のメッセージも聞き入れてもらえません。

この会の記事では、子育てコーチングにおける適切な対話のテクニックについて解説します。コーチングの3大スキルと照らし合わせながら、言葉がけのテクニックを用いることで、お子様の学力や意欲を大きく向上させることができます。

■目次

子育てコーチングで用いるお子様との対話テクニックとは
1、アイメッセージ

2、その他の対話テクニック

3、まとめ

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1、アイメッセージ

子育てコーチングをする際の対話のベースとなるテクニックがアイメッセージです。アイメッセージをうまく活用すると、お子様に自信や自主性を育むことができます。具体的な使用シーンを踏まえながら、解説します。

1-1 アイメッセージとは

アイメッセージは英語で書くと「I message」です。
お子様に言葉をかける際に、保護者の方自身のことを主語にして、自分自身がどう感じているかを伝える話し方です。子育てコーチングの3大スキルの一つである承認の姿勢を示すには、お子様の行動や考え方を否定せずに、受け入れたうえで自分がどのように考えているかを指し示すことが重要です。

アイメッセージを用いると、例えば以下のような話し方になります。

(お子様がやらなければならない宿題をやっていなかったとき)
「宿題をやっていなかったの?(私は、)すごく残念に思うな。」
「(私は)今日からは、宿題をきちんとやってほしいな。」

1-2 アイメッセージの反対・ユーメッセージとは

アイメッセージの反対がユーメッセージ(You message)で、主語をあなた=お子様にする話し方のことです。
上の例と同様の場合では、次のような話し方になります。

(お子様がやらなければならない宿題をやっていなかったとき)
「宿題をやっていなかったの?(あなたは、)ダメね。」
「今日からはきちんと宿題をやりなさい。」

1-3 アイメッセージとユーメッセージを比べると・・・・

アイメッセージとユーメッセージを比較すると、ユーメッセージの方が、口調がキツいように感じられませんか?子どもが期待に添わない場合にユーメッセージを使用すると、どうしても叱責することになってしまい、お子様の立場から見ると「自分自身を否定された」との思いを抱いてしまう言葉になりがちです。最終的にお子様が言うことを聞いたとしても、「親に怒られたから」、「親が怖いから」という負の感情の結果によるものとなってしまいます。

一方のアイメッセージは、期待を表す内容の言葉となっており、表現としてかなりマイルドになります。自分自身が頑張ることで親の気持ちに応えたい、という子どもの気持ちに呼びかける話し方です。

マイルドな言い方なのでアイメッセージでは子どもが言うことを聞いてくれないんじゃないか、と不安に思われる保護者の方も少なくないと思います。結論からいえば、アイメッセージは即効性のあるものではありません。話し方を変えたからといって、その日からやってほしいことをきちんとしてもらえると期待してはいけません。

アイメッセージは、保護者の方の感情をお子様に伝えることによって、お子様が相手の気持ちを汲み取り行動できるように導いていく言葉です。日ごろからアイメッセージでのコミュニケーションを続けることによって、自発的に相手の気持ちを汲んで行動できるお子様に育てていく、というのがアイメッセージを用いる一番の目的だと思ってください。

1-4 アイメッセージの間違った使い方

アイメッセージを使用しているつもりでも、誤った使い方をされている場合もあります。

  1. 偽りのアイメッセージ
  2. アイメッセージは自分が具体的に何を感じているのかを、相手に伝えるメッセージです。例えば、一般的な考え方などにとって付けたように「私は~思う」とつけてもアイメッセージにはなりません。
    例)宿題をやらないのは、悪いことだと思うよ。
    →宿題をやらないのは悪いことという親の価値観を押し付ける結果になっています。

  3. 感情をぶつけるだけのアイメッセージ
  4. 例えば、「宿題さえできないなんて、(私は)恥ずかしい」といったメッセージは、感情を述べてはいますがかなり強く子どもの行動を非難している印象を受けます。感情に任せて強く相手を否定しても、効果的なアイメッセージとは言えません。

  5. アイメッセージのあとに指示を出してしまう
  6. アイメッセージは、上述の通りお子様が相手の気持ちを汲んで行動できるようにトレーニングを重ねる意味合いも兼ねています。指示としてすぐに答えを提示してしまうと、お子様が適切な行動を考える機会が失われてしまいます。

    例)「宿題をやってなかったの?残念に思うわ。今日は絶対に忘れずやってね。」
    →「忘れずやってね」という指示を出すことによって、お子様が、自分自身で何をすべきかを考える機会を奪ってしまい、行動を強制することになってしまいます。

1-5 アイメッセージのまとめ

子育てコーチングの話し方のテクニックの一つとしてアイメッセージを紹介していますが、実は、アイメッセージそのものが子育てコーチングの考え方に近いものがあります。

強制力のある言葉のユーメッセージとは異なり、コーチである保護者の方の気持ちや理想、願望を指し示すことでお子様と同じ方向を向いて目標が達成できるように導く手法です。アイメッセージを効果的に使用すると、お子様の意思を尊重する姿勢につながり、主体性に繋がります。

アイメッセージを使用する際には、親子コーチングの3大スキルの承認を意識して使用しましょう。

2、その他の対話テクニック

アイメッセージ以外にも、コーチングの対話を行う上ではさまざまなテクニックがあります。

2-1 ユアクエスチョン

ユアクエスチョンは、質問を投げかけることによって相手の気持ちをオープンにする方法です。
「クエスチョン」の文字通り、子育てコーチングの3大スキルの中で、質問をする際に直接役に立つテクニックです。

ユアクエスチョンを用いる際のコツは、相手の感情にベクトルを合わせて質問を投げかけることです。

例えば、試験の結果が思わしくて悩んでいるお子様に対して「残念だったね」とか「次頑張ろうね」という言葉を投げかけるのではなく、「今回のテストの結果についてどう思う?」と質問をするのがユアクエスチョンです。
「残念だった」とか「悔しかった」といったような答えが返ってきたら、「残念だったんだね。どんなところが残念だった?」とか、「悔しかったんだね。悔しかった原因はなんだろう?」といったように、会話を掘り下げていくことで、お子様の心情に寄り添ったコーチング=質問が行えます。

お子様の本心を聞くための質問ですので、結果について責めたり、回答を特定の結論に誘導したりするのは望ましくありません。

また、ユアクエスチョンと通常のユアクエスチョンではない質問についての区別を認識することも重要です。
例えば、「今日は塾で何を学習したの?」という質問は、事実を聞いているだけなので当然、ユアクエスチョンではありません。また、「今日の塾での学習は楽しかった?」といった質問の場合、お子様の感情についての質問ではありますが、お子様が「楽しかったよ」と答えて完結してしまうような場合にはユアクエスチョンにはなりません。

2-2 バックトラッキング

バックトラッキングとは、返事をする際に相手の言葉をそのまま口にすることです。いわゆる「オウム返し」です。オウム返しには、あまり良い印象を持たれていない方もいらっしゃるかもしれませんが、コーチングを行う上では、とても重要なスキルの一つです。バックトラッキングによって、話した人は、「意見を否定されずに受け入れられた」、「自分のことを理解してくれた」と感じられ、親近感や信頼感が生まれるといわれます。

子育てコーチングの三大スキルのうち、承認や傾聴の姿勢を表すための具体的なテクニック、ということになります。

具体的には、以下のように用います。

(お子様)「テストの点が悪くて悔しかったー」
(保護者様)「そっかー。悔しかったんだね」

(お子様)「宿題が多すぎて、大変」
(保護者様)「宿題が多すぎて大変なんだね。どんな宿題がでたの?」

単純にバックトラッキングの一言を挟むだけで、お子様が話を聞いてもらえたということが実感できるので、承認の姿勢を明確に表すことができます。例えば、上の会話例で、
(お子様)「テストの点が悪くて悔しかったー」
(保護者様)「次は、もっと頑張ろうね」
とバックトラッキングを用いずに答えた場合、お子様としては、(悔しかったっていう気持ちを聞いてほしかっただけなのに・・・)、(一生懸命頑張った結果なのに・・・)、といった感情になってしまい、保護者の方を信頼できる味方だと認識する気持ちが薄れてしまいかねません。

また、お子様が自分の感情を整理しきれずに、起こった出来事や思った感情を話す場合に、お子様の真意を把握して要約してあげると、感情の整理にもつながります。

ほとんど機械的に用いることができるテクニックですが、日々の会話の中で用いるのは意外に難しいテクニックです。子育てコーチングの場面以外でも、会話のあらゆる場面で信頼感の強まるテクニックですので、状況を問わずバックトラッキングを使用する癖づけをしておくと良いでしょう。

2-3 ペーシング

ペーシングとは、相手の話し方や声のトーン、テンポ、表情、体の動きなどを相手のペースに合わせるということです。
ペーシングを行うには、保護者の方がお子様のことをじっくり観察しなければなりません。また、話を聞くときは家事や作業をしながらではなく会話に集中する、相手の目を見て話す、お子様の話に適宜あいづちをうつ、など会話をする姿勢が重要ですが、これらの態度の一つひとつも一種のペーシングといえます。またバックトラッキングもペーシングの一種です。

お子様のことを観察して、相手の状態に同調することによって、心が通い合い、相手から「自分のことを理解してくれている」という信頼感を得られやすい、というテクニックです。

ペーシングの姿勢によって信頼感を高め、話しやすい雰囲気をつくることによって、コーチング3大スキルの傾聴や質問がしやすい空気をつくることができます。

2-4 沈黙

対話によって真剣に話し合いをしている最中に、お子様が黙ってしまうこともあります。いわゆる「沈黙」の状態です。

沈黙状態のときに、保護者の方が不安になって沈黙を埋めるための言葉を発するケースもありますが、状況によってはじっと待つことが重要なこともあります。なぜなら沈黙の間に、お子様が心の中で自分自身と向き合い、考えを整理したり、反省したり、新しいアイデアを生み出そうとしている場合があるからです。

ただし、黙ってじっと待っていることがお子様にとってのプレッシャーになることもありますので、沈黙が長引いた場合には、「ゆっくり考えてもいいよ」と声をかけたり、短めの考えのヒントを出したりするのも良いでしょう。

3、まとめ

子育てコーチングは、対話を中心として目標達成を目指す指導の考え方なので、やはり言葉のかけ方や会話のテクニックが非常に大きな意味を持っています。

コーチングに関して、定まったスキルがあるわけではありませんが、お子様の考えを引き出したり、心をオープンにさせたりするための対話テクニックにはさまざまなものがあります。今回の記事では、アイメッセージを始めとして会話の場面で使用できるテクニックをいくつか紹介しています。

子育てコーチングを家庭で行うには何から始めたらいいの?
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といった疑問を持たれている保護者の方は、まずは日常の場面でコーチングの対話テクニックを習慣化するところから始められてはいかがでしょうか?